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鳥取地方裁判所 平成2年(行ウ)2号 判決

鳥取県米子市米原五六四番地

原告

高林興産株式会社

右代表者代表取締役

高林健治

右同所

原告

高林機材株式会社

右代表者代表取締役

高林健治

右同所

原告

高林鉄道資材株式会社

右代表者代表取締役

高林健治

右同所

原告

高林通商株式会社

右代表者代表取締役

高林健治

同市夜見町二八四五番地

原告

高林工業株式会社

右代表者代表取締役

高林健治

同市東町一二四番地の一六

被告

米子税務署長 遠藤正昭

右指定代理人

高岡淳

右同

岡田克彦

右同

毛利甫

右同

岡垣利幸

右同

井田修二

右同

豊田耕輔

右同

伊藤敏彦

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者が求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告らの昭和四八年六月一日から昭和四九年五月三一日までの事業年度及び昭和四九年六月一日から昭和五〇年五月三一日までの事業年度の法人税について昭和五一年六月三〇日付けでした各更正は無効であることを確認する。

2  被告が原告らの昭和五〇年六月一日から昭和五一年五月三一日までの事業年度の法人税について昭和五一年一二月一〇日付けでした各更正は無効であることを確認する。

3  被告が原告らの昭和五一年六月一日から昭和五二年五月三一日までの事業年度及び昭和五二年六月一日から昭和五三年五月三一日までの事業年度の法人税について昭和五四年三月二三日付けでした各更正は無効であることを確認する。

4  被告が原告高林興産株式会社及び同高林工業株式会社の昭和五三年六月一日から昭和五四年五月三一日までの事業年度及び昭和五四年六月一日から昭和五五年五月三一日までの事業年度の法人税について昭和五五年一二月一九日付けでした各更正は無効であることを確認する。

5  被告が原告高林興産株式会社の昭和五五年六月一日から昭和五六年五月三一日までの事業年度、昭和五六年六月一日から昭和五七年五月三一日までの事業年度及び昭和五七年六月一日から昭和五八年五月三一日までの事業年度の法人税について昭和五九年六月二八日付けでした各更正並びに昭和五八年六月一日から昭和五九年五月三一日までの事業年度の法人税について昭和六二年七月三一日付けでした各更正はいずれも無効であることを確認する。

6  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

本案前の答弁

1  本件訴えをいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、原告らの昭和四八年六月一日から昭和四九年五月三一日までの事業年度(以下「昭和四九年五月期」という)及び昭和四九年六月一日から昭和五〇年五月三一日までの事業年度(以下「昭和五〇年五月期」という)の各法人税について、原告らが青色申告法人であるにもかかわらず、原告らの帳簿書類を調査ぜずに昭和五一年六月三〇日付けで更正したのであるから、右更正には、調査手続上の重大かつ明白な瑕疵があり無効である。

2  被告が原告らの昭和五〇年六月一日から昭和五九年五月三一日までの間の九事業年度に関する各法人税についてした各更正は、昭和五一年六月三〇日付け更正を前提とするものであるからいずれも無効である。

3  よって、原告らは被告に対し、請求の趣旨のとおり被告したが各更正の無効確認を求める。

二  被告の本案前の主張

1  再更正による訴えの利益消滅について

被告が、原告高林興産株式会社(以下「原告興産」という)、同高林機材株式会社(以下「原告機材」という)、同高林鉄道資材株式会社(以下「原告鉄道資材」という)及び同高林通商株式会社(以下「原告通商」という)に対し、昭和五一年六月三〇日付けでした昭和四九年五月期及び昭和五〇年五月期の各法人税についての各更正は、昭和五一年八月七日付けの各再更正により、いずれも所得金額を確定申告に係る金額まで減額し、また、被告が原告高林工業株式会社(以下「原告工業」という)に対し、昭和五一年六月三〇日付けで昭和四九年五月期の法人税についての更正についても、昭和五二年二月九日付けの再更正により所得金額を確定申告に係る金額まで減額した。

したがって、右の各更正はいずれも各再更正により取り消されてすでに消滅しているから、原告らのこれら各更正の無効確認請求は訴えの利益を欠く。

2  確定判決の既判力に基づく不適法却下について

原告らが本件において無効確認を求めている各更正のうち、1項に掲げたもの以外のその余の各更正(以下「本件その余の各更正」という)については、原告らと被告間の鳥取地方裁判所昭和五二年(行ウ)第六号、昭和五六年(行ウ)第一号法人税更正処分等取消請求事件及び同裁判所昭和六〇年(行ウ)第一号法人税額等更正処分取消事件並びに同裁判所昭和六三年(行ウ)第一号法人税額等更正処分取消請求事件において、本件その余の各更正の取消請求を棄却した確定判決(昭和五二年(行ウ)第六号、昭和五六年(行ウ)第一号各法人税更正処分等取消請求事件及び昭和六〇年(行ウ)第一号法人税額等更正処分取消請求事件は昭和六三年三月一日確定、昭和六三年(行ウ)第一号法人税額等更正処分取消請求事件は平成元年一一月二一日確定)が存在するから、本件その余の各更正の無効確認を求める原告らの訴えは前訴主張の単なる蒸し返しであり、本案判断をするまでもなく却下されるべきである。

3  原告適格について

行政処分の無効確認の訴えは、当該処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り提起することができる(行訴法三六条)ものであるところ、本件については、原告らは、本件各更正により確定した法人税の税額の全額をすでに納付済であるから、本件各更正に続く滞納処分を受けるおそれはなく、かえって、原告らは、右納付済の法人税額に相当する金員を、本件各更正の無効を前提として不当利得による返還請求ができるのであるから、原告らの本件各更正の無効確認を求める訴えは原告適格を欠く。

三  被告の本案前の主張に対する認否・反論

1  被告は、昭和四九年五月期及び昭和六〇年五月期の各法人税について、原告らの帳簿書類を調査せずに昭和五一年六月三〇日付けでした更正は、青色申告制度を根幹から覆す重大な瑕疵であるから、被告が、同年八月七日付け再更正において、原告らの申告通りに減額したからといって、更正の調査手続上の重大な瑕疵が治愈され、更正自体が消滅してしまうわけではない。

2  原告らは、本件と同じ課税処分の無効確認を再審の訴えとして最高裁判所に提起したところ、最高裁判所は右訴えを鳥取地方裁判所に移送した。その移送した事件が本件訴えであるが、最高裁判所は、本件訴えを移送する前提として、本件訴えには当然訴訟要件が具備されていると判断しているのである。

理由

一  被告の本案前の主張について

1  再更正による訴えの利益消滅について

更正した所得金額を確定申告に係る金額まで減額する再更正は、更正の取消処分としての効力を有するものと解されているところ、本件においては、被告が原告興産、原告機材、原告鉄道資材及び原告通商に対し昭和五一年六月三〇日付けでした昭和四九年五月期及び昭和五〇年五月期の各法人税についての各更正は、昭和五一年八月七日付けの各再更正により、また、被告が原告工業に対し、昭和五一年六月三〇日付けでした昭和四九年五月期の法人税についての更正は、昭和五二年二月九日付けの再更正により、いずれもその所得金額を確定申告に係る金額まで減額されている(この事実は当事者間に争いがない)。

したがって、原告興産、原告機材、原告鉄道資材及び原告通商の昭和四九年五月期及び昭和五〇年五月期及び原告工業の昭和四九年五月期の各法人税についての各更正は、調査手続上の瑕疵の存否にかかわりなく、いずれも右の各再更正により取り消されて消滅した。

よって、右の各更正の無効確認の訴えは、無効確認の対象である各更正がすでに消滅しているから、訴えの利益を欠き、却下されるべきである。

2  原告適格について

本件訴えは、被告が原告らにした本件各更正の無効確認を求めるものであるが、本件においては、原告らは、いずれも平成三年一二月二五日現在において滞納税額がなく、(乙一〇ないし一四)、本件係争事業年度にかかる昭和四九年五月期から同五九年五月期の各法人税をいずれも納付済みであり、行訴法三六条前段の「後続処分により損害を受けるおそれ」はないのであるから、同条後段の「処分(本件各更正)の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない」場合にのみ、本件各更正の無効確認の訴えを提起することができるものであるところ、原告らは、本件各更正の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴え(例えば不当利得返還の訴え)によって本案判決を受けることができるものというべきであるから、原告らの本件各更正の無効確認を求める訴えは原告適格を欠き不適法である。

3  余論

被告は、確定判決の既判力に基づく不適法却下の主張もするが、前訴で、棄却判決がされて確定したにもかかわらず、敗訴者が同一訴訟物につき、前訴判決内容に矛盾する訴えを提起した場合には、再び本案の審理をして棄却判決をすべきであると解されるから、被告の右主張は採用しない。

最高裁判所の移送決定が訴訟要件具備の判断を前提としているとする原告らの主張は明らかな誤解である。

二  結論

以上のとおり原告らの本件無効確認請求は、いずれも不適法であるからこれを却下し、訴訟費用の負担については、行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前川豪志 裁判官 小林克美 裁判官 佐々木信俊)

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